妄想癖・脱線症と戦いながら、映画や本、世事について、思ったことを 棚卸し(たなおろし)するブログ。
2008年6月の読書
2008年06月29日 (日) | 編集 |
『新世界より 上・下』 貴志 祐介
『夜を着る』 井上 荒野
『夜は短し歩けよ乙女』 森見 登美彦
『ナツメグの味』 ジョン・コリア 垂野 創一郎訳
『魔の山 (上巻)』 トーマス・マン 高橋 義孝訳
『城』 カフカ  池内 紀訳
『アーティストは境界線上で踊る』 斎藤 環
『スクラップ・ギャラリー 切りぬき美術館』 金井 美恵子
『目白雑録〈2〉―ひびのあれこれ』 金井 美恵子
『酒と肴と旅の空』 池波正太郎
『旨いものはうまい』 吉田 健一
『非居住者のすすめ』 邱 永漢

新世界より 上 新世界より 下 夜を着る 夜は短し歩けよ乙女 ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY) 魔の山 (上巻) (新潮文庫) 城―カフカ・コレクション (白水uブックス)
アーティストは境界線上で踊る スクラップ・ギャラリー 切りぬき美術館 目白雑録〈2〉―ひびのあれこれ 酒と肴と旅の空 旨いものはうまい (グルメ文庫) 非居住者のすすめ (中公新書ラクレ 276)

『続 まこという名の不思議顔の猫』 前田 敬子
『かき氷の本』 福田 里香
『ウー・ウェンの黒酢でおかず』 ウー・ウェン

続 まこという名の不思議顔の猫 かき氷の本 (別冊すてきな奥さん) ウー・ウェンの黒酢でおかず


JUNO×インディ
2008年06月14日 (土) | 編集 |
本日『インディー・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』を観た。
いったん家に帰ったものの、もう一度出かけて『JUNO/ジュノ』を観た。

インディーの思い出が瞬く間にジュノにかき消されてしまった。
制作費は数十倍違うけど。

ジュノ×インディー


2008年5月の読書
2008年05月30日 (金) | 編集 |
今月の偏読は「本の本」と「着物」。着物は『おせん』の影響(笑)。

『私の男』 桜庭 一樹
『消えた直木賞 男たちの足音編』 川口 則弘
『ラス・ヴェガスをブッつぶせ!』 ベン・メズリック
『血と暴力の国』 コーマック・マッカーシー 黒原 敏行
『ネットオークションで騙す。全米を揺るがした絵画詐欺犯の告白』 ケネス・ウォルトン
『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』 ダニエル T.マックス
『消えたカラヴァッジョ』 ジョナサン・ハー
『鐵のある風景―日本刀をいつくしむ男たち』 森 雅裕
『あたりまえのこと』 倉橋 由美子
『偏愛文学館 』 倉橋 由美子
『本の本―書評集1994-2007』 斎藤 美奈子
『大好きな本 川上弘美書評集』 川上 弘美
『百年の誤読 海外文学編』 岡野 宏文 豊崎 由美

私の男 消えた直木賞 男たちの足音編 ラス・ヴェガスをブッつぶせ! 血と暴力の国 (扶桑社ミステリー マ 27-1) ネットオークションで騙す。  全米を揺るがした絵画詐欺犯の告白 眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎 消えたカラヴァッジョ 
鐵のある風景―日本刀をいつくしむ男たち あたりまえのこと (朝日文庫) 偏愛文学館   本の本―書評集1994-2007 大好きな本 川上弘美書評集 百年の誤読 海外文学編

『自宅でパン屋をはじめました』 大和田 聡子
『夜中にジャムを煮る』  平松 洋子
『一田食堂』 一田 憲子
『日々の食材ノート』 渡辺 有子
『お料理コーディネイト帖』 長尾 智子
『サルビア給食室の週末ストックと毎日のごはん』 ワタナベ マキ
『きもの熱』 清野 恵里子
『豆千代の着物モダン』 豆千代
『君野倫子のきもの着せかえあそび』 君野 倫子
『きもの便利帖』 君野 倫子
『草手帖』 かわしま よう子

自宅でパン屋をはじめました 夜中にジャムを煮る 一田食堂 日々の食材ノート お料理コーディネイト帖 サルビア給食室の週末ストックと毎日のごはん
きもの熱 豆千代の着物モダン (マーブルブックス) きもの便利帖 君野倫子のきもの着せかえあそび 草手帖 


「食堂かたつむり」と板東眞砂子
2008年05月01日 (木) | 編集 |
食堂かたつむり食堂かたつむり 小川糸

食べることは愛することであり、愛されることであり つまり生きることなんだ。って改めて教えられる素敵な物語でした。
 − 草野 マサムネ(スピッツ)

毎日口にするごはんにこんなに物語が詰まっているなんて気がつかなかった。これからは大きな声で「いただきます」と言いたい。 − 岡野 昭仁(ポルノグラフティ)

最初に本屋で平積みのこの本を見たとき、帯のコメントがオーラを放っていた(笑)。その時はなかなか乙な選出だなぁと思ったのだが、その後にTVの王様のブランチで取り上げられ、著者のインタヴューを見て合点がいった(あ、仲間内ってことね)。著者のブログ糸通信の中で、コメントしてくれた二人にお礼が述べられている。

興ざめする人もいるだろうが、宣伝というのは得てしてそういうもので。本の帯というのは絶大な効果を発揮する。それが畑の違う人気歌手のコメントとなればPR性は十分、彼らのファン層や普通なら手にしない男性にまで裾野は広がる。そうじゃなくても女性たちは「食堂もの」に滅法弱く(私も)、食堂の匂いとスピッツが醸しだす心地よさとカバーイラストの可愛さが渾然一体となって、世のかもめ症候群たちの五感をくすぐる。そして甘いだけではないピリリと辛いスパイス。著者のバックグラウンド。この本にはヒットの要素がたくさん揃っている。

それにしても、いろんなデジャヴを与える本だ。
まずは、吉本ばななの「キッチン」。
大好きだった祖母の死。
そして、母ルリコは田辺雄一の母えり子を髣髴とさせる。豪快なキャラも風貌も。
方や、「美容整形して女装した中年の男みたい」なルリコ。
方や、ほんまもんの中年男のえり子(笑)。

さらに、連想炸裂。
食堂=かもめ食堂、おかん=東京タワー、エルメス=電車男。後二つは後述。
2006年3月のポプラ社小説大賞の応募作だそうだが、ちょうどその頃の話題作キーワードが揃って登場するのは偶然か狙ってか?

「かもめ食堂」は採算や食材ロスといった現実問題を排除した話だったが、その点では食堂かたつむりも似たり寄ったり。倫子が開く食堂のスタイルはこんな感じだ。

それは、一日一組だけの、ちょっと変わった食堂だ。
前日までにお客様と面接もしくはファックスやメールでやり取りし、何が食べたいとか、家族構成とか将来の夢とか予算などを、細かく調査する。私はその結果に基づいて、当日のメニューを考える。


えーかつて、プティ・エトワールというレストランにとても可愛いシェフがおりました。
シェフの名は鴨沢瀬理。彼女は、お客との会話を通じてその客に合った料理を作るという天賦の才能を持っていました。
矢田亜希子といってもドラマの世界の話。2002年に放送された矢田亜希子連ドラ初主演作「マイリトルシェフ」。レコード大賞をとった主題歌(浜崎あゆみの「Voyage」)ほど話題にはならなかったけれど、毎週欠かさず見ていた。
HPを見ると、瀬理は25歳。食堂かたつむりの倫子も25歳。
(その矢田ちゃんも今や一児の母・・・)


著者はアミューズに所属されているそうで、もはや映画化まっしぐらという感じだが、この本には映像化の前に非常に難しいハードルが横たわっている。
下ネタ用語が意外に多い・・・ってことじゃもちろんなくて(笑)、屠畜を克明に描いているから。そしてこれは絶対に飛ばせない肝の部分なのだ。命を食べることをテーマにしている点で超現実的であるような、25歳の女性に屠畜が出来るかどうかという点で非現実的でもあるような。
倫子はただ目を背けないだけではなく、自らの手で解体するという任務も全うする。

鶏をつぶすシーンで、板東眞砂子女史が日経夕刊コラムに寄せた「肉と獣の距離」を思い出した。以前ブログにも書いたが、彼女はこの中で、「私は鶏は殺すことができる。」と書いている。そしてその後に同じ口調で「私は子猫を殺している。」と書き、日本中のバッシングを浴びることになるのだが(笑)。このコラムで彼女の生き物を食べる姿勢が分かる。子猫殺しばかり取り上げられたけど、「肉と獣の距離」だって少しは取り上げてほしかったように思う。

では、もし、猫を余すことなく食べるのだったら・・・・?
それを問うのが、この「食堂かたつむり」である。(え?違う?)

いのちの食べかた (よりみちパン!セ)板東眞砂子の命の食べ方はスルーされたけど、森達也著のいのちの食べかた (よりみちパン!セ)は多くの人に読まれ、その題名を拝借した同名映画(ドイツ・オーストリア製作)も公開され話題を呼んでいる。そういう意味では、とてもタイムリーなテーマともえいる。

食材を無駄にせず余すところ無く食べるというのが倫子の強い思い。
でも、一人二人の客のためのメニューだと、食材は無駄にならないのだろうか?
原価率も心配だし、何より倫子の体重が心配だ。

でも一番心配になったのが、2番目のお客である「お妾さん」のお代だったり(笑)。
「お妾さん」が真っ赤なコートで登場するところで、思わず表紙を見返す私。
頭に被っているのはロシア帽ではなくてニット帽、すぐ後にエルメスもいるので、一瞬よぎった疑念は杞憂だったようだ(そりゃそうだ)。
ちなみにニット帽の下は坊主なんだよね。ここで引く人もいるだろうけど、私はなんだか羨ましくなった(そういう衝動に時々駆られる)。

それにしても、インド人は最初から確信犯だな。
3年も付き合ってクッキングシートまで持っていくなんて、愛情のかけらも無いもの。
夢を語り合いながら、押入れの札束が増えるのを虎視眈々と狙っていたとみた。
インド人、家賃払ってないよね、きっと。

母えり子に対してもそうだけど、人を見る目が危うくないか、倫子。

マイリトルシェフ DVD-BOXマイリトルシェフ DVD-BOX
矢田亜希子

ポニーキャニオン 2003-01-16
売り上げランキング : 5236
おすすめ平均
Amazonで詳しく見る
by G-Tools


2008年4月の読書
2008年04月30日 (水) | 編集 |
『柘榴のスープ』 マーシャ メヘラーン, 渡辺 佐智江訳
『居酒屋』 ゾラ
食堂かたつむり』 小川 糸
Rのつく月には気をつけよう』 石持 浅海
『緋色の迷宮』 トマス・H. クック ,村松 潔訳
『煙か土か食い物』 舞城 王太郎
『日本語ぽこりぽこり』 アーサー・ビナード
『ペルセポリスI イランの少女マルジ』 マルジャン・サトラピ, 園田 恵子訳
『ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る』 マルジャン・サトラピ, 園田 恵子訳
『本棚三昧』 藤牧 徹也
『道具と暮らす』 主婦と生活社
『SELECTED GALLERY GUIDE』 江沢 香織
『日本のおかず』 西 健一郎
『京の町家 おりおりの季節ごはん』 秦 めぐみ
『家庭で作るポルトガル料理―魚とお米と野菜たっぷり』 丹田 いづみ
『スペインから届いた、ほっとやさしいレシピ』 丸山 久美

柘榴のスープ 居酒屋 (新潮文庫 (ソ-1-3)) 食堂かたつむり Rのつく月には気をつけよう 緋色の迷宮 (文春文庫) 煙か土か食い物 (講談社文庫)

日本語ぽこりぽこり ペルセポリスI イランの少女マルジ ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る 本棚三昧 道具と暮らす SELECTED GALLERY GUIDE 暮らしまわりを豊かに楽しむとっておきのギャラリー案内

日本のおかず 京の町家 おりおりの季節ごはん 家庭で作るポルトガル料理―魚とお米と野菜たっぷり スペインから届いた、ほっとやさしいレシピ 


Rのつく月には気をつけよう
2008年04月16日 (水) | 編集 |
4396632878Rのつく月には気をつけよう
石持 浅海
祥伝社 2007-09

by G-Tools

学生時代からの親友である長江、熊井、湯浅の男女3人が、恒例の飲み会を開く。
毎回酒と肴のテーマを決め、ゲストを一人呼ぶ。場所は長江の部屋。メニューは、

 生牡蠣×シングルモルトウイスキー「ボウモア」
 砕いたチキンラーメン×ビール
 チーズフォンデュ×オレゴンのシャルドネ
 豚の角煮×泡盛
 炒った銀杏と塩×静岡の純米酒
 そば粉のパンケーキ×ブランデー「ポールジロー」
 スモークサーモン×シャンパン「パイパー・エドシック」

一番惹かれた組み合わせは、バターたっぷり外がカリカリのそば粉のパンケーキとブランデーの組み合わせ。二つを口にした時のメンバーのリアクションに妄想始動。ブランデーと粉もの、バターの相性の良さはお墨付き(ブランデーケーキだってある)。 それを思うと、上記の酒と肴の組み合わせは単独メニューとして成り立っているものが多い。チーズフォンデュは白ワインでのばし、沖縄の角煮(ラフテー)は泡盛で煮る、生牡蠣にシングルモルトを垂らす・・・。
ちなみに『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』で、村上春樹がスコットランドのアイラ島で生牡蠣×ボウモアの組み合わせを教わったときの感想は、
「牡蠣の潮くささと、アイラ・ウィスキーのあの個性的な、海霧のような煙っぽさが、口の中でとろりと和合するのだ。」

[READ MORE...]
ノーカントリー
2008年04月04日 (金) | 編集 |
ノーカントリー。"No Country For Old Men"が縮まり、なんのこっちゃな邦題。
カート・ヴォネガットの「国のない男」"A Man without a Country" がなんとなく脳裏をよぎったが、 老人が母国の現状を嘆いている点でそう遠くもないか。

ノーカントリーのポスター
真ん中だけど助演(笑)。持って行き方によって誰が主役になってもおかしくない。

舞台はベトナム戦争(1959−1975)から5年後の1980年(最後に某人物の墓石に刻まれた没年がこれ)。麻薬密売の大金を横領した男とそれを追う殺し屋、さらにそれを追う保安官という筋書きに、三つ巴の戦い、しかも比重は後者二人にあるとばかり思っていた。予想外だったのは、ネコババ男も異常にタフだったこと。
モスがベトナム戦争帰還兵であったことから、数々の危機を逃れ、後半は水を得た魚のごとく反撃に出る。彼が求めていたのは大金(安泰)というより、むしろ危険(刺激)そのものだったのではないかと思わずにいられない。一方殺し屋もベトナム戦争体験者と思われ、かくして戦争後遺症患者同士の壮絶な死闘が繰り広げられる。
奇しくも同じ境遇に陥る二人。特殊訓練を受けている者ならではの同じ行動が笑える。二人の対比も面白いが、遭遇する若者たちの対比もまた面白い。

モス役のジョシュ・ブローリンは先日観た『アメリカン・ギャングスター』で金をたかる姑息な警官を演じていて、今回も取るに足らないチンケな男ぐらいに思っていたら、意外にも応援したくなるタイプ。ギャング同士の抗争で一人生き残った虫の息の男にとどめを刺すのではなく(そう思った)、家から水を持ってきてあげるといった人情味も見せ、その妻カーラ(ケリー・マクドナルド)も好感が持てる。思いがけないシガーとの互角の戦いに、いつの間にか彼の立ち位置が主役級に置き換わっており、奇跡の生還に一筋の希望の光まで見てしまう。(しかしその期待通りにもっていけば、これまでのハリウッド映画のどれかと同じなっていたともいえる)

そんな濃ゆい二人であるが、本作の主人公は老保安官ベル。それがトミーリー様とくれば、執拗な追跡劇をつい想像してしまうが、ベルには「逃亡者」「追跡者」のような執念はない。「この国は人に厳しい」と、宇宙人ジョーンズさながらコーヒー片手に世を嘆くばかり。ようやく、邦題から消されてしまった"Old Men"に思い至る。

ノーカントリー
珍しく愛想笑いの瞬間 (直後、プシュッ!)

映画は、殺し屋のアントン・シガーがいきなり逮捕されるところから始まる。たいした罪ではないのだろう、警察官に緊張感はない。彼はボンベを持った変な男でしかなく、それが住居侵入や殺人のマルチアイテムだということを知らない。保安官ベルも現場検証で武器を特定できず、首を傾げる。(この映画以降、ボンベ所持者は職務質問必至だな)

プロの殺し屋たるもの表立って派手な動きをしないものだが、シガーは違う。車が必要ならその都度調達(強奪)、万引きするならボヤ騒ぎと、痕跡残しまくり。ターゲット以外も簡単に殺し、依頼人にすら手を掛け、制御不能で暴走し始めた殺人マシーンのごとし。(それで仕事の依頼が来るのかが謎。自分で仕事を取るコミュニケーション力は無さそう)
一度指令がインプットされれば、完了するまで止まらない。快楽を感じるでもなく淡々と殺人をこなしていく様子は、ターミネーターや『バトルロワイヤル』の桐山(脳障害で感情が欠損)を見ているようで、嫌悪感すら沸かない(怖可笑しい)。
ただ、彼なりのルールが存在するゆえ、無差別殺人鬼と違って次の手が予測不可能なだけに終始固唾を飲まずにはいられない。

ノーカントリー
店主を値踏みする目つきがたまらない

GS店に立ち寄ったシガーは、世間話を投げ掛けてきた店主に、唐突に彼の生い立ちや人生に満足してるかを問い、「おまえがこれまでのコイントスで失った一番大きなものは何だ」と訊ねる。質問の真意が分からない店主からの質問は一切許さず、唐突に「表か裏か。賭けろ」(”Heads or tails? Call it”)と迫る。会話は一方通行、これぞディスコミュニケーション。状況が呑み込めない店主は、シガーがカウンターに置いた菓子の包み紙が生き物のように動く様(シュールだ)をじっと見つめて思案に暮れる。シガーの気迫に気圧され、とうとう店主は「買ったら何がもらえるか」と話に乗じると、返った答えが、"Everything." (全てだ)。

つまり負ければ、Everythingがナッシングなわけで(汗)。
しかし店主はそんな不条理な真意にまで気付いた様子はないし、気付けば賭けられるはずもなく。一方観客は、これが生死を賭けたものだと明示されたわけでもないのに当然そうであると了解して、固唾を呑んで見守る。結果的にシガーからラッキーコインだから大事にとっておけと言われるが、頭の変な客にもらったコインとしていつしかレジに投入されることだろう。(このコインを持っているラッキーな人がほぼ1/2の確率でいらっしゃるわけだ)

この命懸けのコイントスは後にも登場する。殺しを決めかねる時(特に必要性が無い時)にコイン任せにするのが彼のルール。使われるコインが、シガーがあえて店主に語ったように22年前の1958年製、つまりベトナム戦争が始まる直前のものであることからも、シガーの作り上げたルールが戦争体験による死生観に関係しているのではないだろうか。戦争こそ一寸先が裏か表か分からないのだから。

ノーカントリー

シガーのユーモアの無さが観ている方にはユーモアとして映る。無表情のままモーテルの部屋の前で受信機音に合わせて車を微調整する生真面目な仕草が妙に可笑しい。それに極度の潔癖症。殺し屋だけど靴底の血や返り血は嫌、重傷を負ってもカーペットを汚さないようシート張りするマメさ。道中で見せる傍若無人ぶりと神経質さのアンバランスがステキ。
融通がきかず、必要性より必然性。自ら作ったルールは自らの意志で持っても変えられない(強迫性障害か)。コイントスだけが殺人を止める自分なりの理由付けになり得るのだ。「自分の意志で決めるのよ」と、モス妻カーラに痛いところを突かれるが、そう簡単に変えられるものでもない。

そんな運命決定論者も、当然ながら運命には逆らえないという皮肉。
ベトナム戦争と暗殺者の危機から逃れ瀕死の状態から蘇ったモスの末路も然り。
凄腕の暗殺者が偶発的な事故に遭わないとは限らない。
突然の悲劇は殺される側だけでなく殺す側にも平等に訪れる。
(ラブコメの主人公だって無敵のヒーローだって交通事故に遭うときは遭うのだ)
ただ、バックミラーでシガーがチラ見する自転車の少年たちに、欄干の鳥を重ね合わせてしまったが、一体あの熱い視線はなんだったのだろう・・・。もしや、少年愛?

日常に潜む暴力とシニカルなブラックユーモアの組み合わせといえばクローネンバーグ。不穏な空気がたちこめる一触即発の緊張感と脱力感は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に似ているが、あちらが画面いっぱいに充満する悪に不快感を伴うのに対して、『ノーカントリー』(コーエン兄弟の作品全て)はどこまでも無機的。クローネンバーグの描く血(ほとんど肉片)は生暖かく、コーエン兄弟の血はドライな感じ。
コーエン兄弟は今作でアカデミー賞監督賞を受賞したが、主要部門は功績が重要視されがちだから(前年のスコセッシなんか特に)、製作順序によってどの作品で獲っていてもおかしくない。個人的には『赤ちゃん泥棒』が傑作だと思うけれど(笑)

『海を飛ぶ夢』での回想シーンで、髪型でこうも変わるのかと驚かせられたハビエル・バルデム、今回も髪型の重要性を切実に体現してくれた。今回は珍しく趣味いいと思わせたペネロペ姐さん(ひょっとして、あげまん?)、アントンシガー☆コスプレ三昧なのが羨ましすぎ。 

ジョシュ・ブローリン、ケリー・マクドナルド、ハビエル・バルデム
涎モノの両手に漢!