
トルーマン・カポーティの誕生日(9/30)に公開となった「カポーティ」。おお、なんという洒落たことを・・・と思ったら、なんてことはない、アメリカの公開も1年前のこの日だった。公開初日の初回に観に行くのは久しぶりだ(朝が苦手)。日比谷のシャンテシネ、11時15分の上映の30分前に行くと、劇場前に行列が。初回だけ指定ではないので、入館待ちとチケット購入待ちの列が出来ていたが、座席にまだ余裕があった。座席に着き、予告が始まるまでには、ほぼ満席に。
意外だったのは、私が最年少といってもいいくらいで、平均年齢50代後半〜60代か。かなり年配の方も見受けられた。リアルタイムカポーティ世代の方々だ。平均年齢は「不撓不屈」に近い感じだが、本日はそこはかと漂うインテリな香り・・・。初回というだけあって、アメリカ文学愛好家率高しか?フィリップ目当てでやって来た私とは、明らかに一線を画していた・・・。
映画全体としては、派手な音楽や演出もなく、静かに淡々と、そして重々しく進んでいく。冬のカンザス州、気が滅入りそうな曇り空に、葉の無い木々の黒い影が不気味に映る。ショッキングな映像より、主を失った広大な農場の寒々とした景色に、事件の悲惨さがひしひしと伝わってくる。霜が降りたような色彩を抑えた感じは、モノクロ映画を観ているような錯覚に陥った。カポーティは、殺人犯の一人、ペリーに興味を示し、彼からあらゆる情報を引き出そうと手を尽くす。自分の生い立ちを先に語ることで同じ側の人間(=理解者)であることを強調し、巧みに彼の心を自分に向けるように仕向ける。
この手法は、殺されたナンシーの友人から話を聞きだすときなどにも使われ、相手に合わせ自分を演じるのはカポーティの得意技のようだ。映画を観る前は、カポーティが犯人ベリーに不可抗力的に惹かれてしまうのかと思っていたが、この映画では打算的な部分が色濃く描かれている。ペリーに対する同情(愛情?)は、どこまでが計算でどこからが本心なのか分からない。恐らくカポーティ自身も分からなかったのかもしれない。
カポーティが幼なじみのハーパー・リーに、「同じ家の裏口から出たのがスミス(ペリー)、表から出たのが自分」というふうに例えて、彼女から「よく分からないわ」と言われる(たぶんそう答えるしかなかったのだと思うが、アラバマ物語的健全さを持つ彼女には本当に分からなかったのだろうか?)。
子供の頃に不幸だったからといって誰しもが狂気と隣り合わせというわけではないが、その経験をした者にしか分からない心の闇というものがある。カポーティは新聞で事件を目にした瞬間、あるいはそれ以前から、事件の被害者よりも加害者の心の闇に目を向けていたのだろう。
悲惨な事件の背景にある暗闇の世界と、社交の場である文壇バーの華やかな喧騒の世界を行き来するカポーティ。ゲイや殺人までもネタにして社交界の取り巻き連中を笑わせる。(人の輪の中心にいながら、なんとなく孤独に見える)
ドラック&アルコール中毒だったといわれるカポーティ。映画の中でも常にお酒と短くなるまで吸ったタバコを手にしており、肺と肝臓を酷使している。そして囚人ベリーのために買った離乳食にウィスキーと思われる琥珀色の液体を注いで食べるシーンに、見てはいけないものを見てしまったような後味の悪さを感じた。大人になってどんなに大成しても、不幸な生い立ちや容姿によるコンプレックスはそう簡単に消えない。身に着けている高級品やハリウッドスターとの交流を、ことあるごとに他人に吹聴するカポーティの姿に、彼が抱えるコンプレックスが窺える。自分自身が大スターであっても、それが自信には繋がらず、常に不安と向かい合わせなのだ。
そんなカポーティの言動に、笑いが起こったシーンがある。
カポーティが事件直後に訪れる警察で、初対面の刑事に対して自分のマフラーを触りながら、わざわざ「高級なカシミアマフラー」と言い添える。対する刑事は、自分の帽子をかぶる時、わざわざ「安い帽子」と皮肉を込めて言い返すのである。
映画を観終わった後、相方が言うには、カポーティは「Bergdorf's」と言い、刑事は「Sears Roebuck」と言っていたそうだ。バーグドルフは高級デパート、シアーズ・ローバックは、通信販売や郊外にある大衆向けのショッピングセンター。もし、直訳されていたらなら、笑いは起きなかったであろう。超訳すれば、「これ、エルメス」 「これヨーカ堂だけど、何か?」 みたいな感じ?
事前にトルーマン・カポーティ本人が出演している「名探偵登場」を観て、P.S.ホフマンのしゃべり方がそっくりだという賞賛の声に納得。キャサリン・キーナーがTVで、「ハーパー・リーに関しての情報が少なく、手探りで演じるしかなかった」と言っていたが、危なげなカポーティを陰ながら支える女性を好演。ほとんどノーメイクで優しく微笑む姿に、母なる包容力みたいなものを感じた。被害者が友人だったことで苦しむ刑事を演じるクリス・クーパーもよかった。
ところで、アメリカでは今月、「Infamous」という、またまたトルーマン・カポーティの伝記映画(インディペンデント)が公開される。こちらの映画では、ハーパー・リー役をサンドラ・ブロックが、ペリー役を次回007ボンドのダニエル・クレイグが演じ、その他も豪華なキャスティングとなっている。日本公開はいつ? → 公式サイト
「famous=有名な」に、in がつくと「infamous=悪名高い」となり、発音は、famous(フェイマス) → infamous(インファマス)に変わる。
さて、日本公開時には、邦題は何となっていることだろう?
ちなみに知人のアメリカ人青年ジャックに、「infamousって言葉、どんな時に使う?」って聞いたら、「う〜ん、言葉は知ってるけど、使ったことはないかも」とのこと。
こちらの原作(↓)は、これから読んでみようと思う。(→翌月完読)
本の表紙はカポーティ自身だが、若かりし日は、なかなかハンサムでナイーブそう。

トルーマン・カポーティ〈上〉 トルーマン・カポーティ〈下〉
ジョージ プリンプトン 著

「 Capote 」 「 Infamous 」
本物のカポーティ、P.S.ホフマンのカポーティ、トビー・ジョーンズのカポーティ。
これぞ、怒涛のカポーティ3連発! (うっ、ヘビーすぎて胸焼けしそう)
皆さんも眉やヘアで変身できるかも↑ ペリー役 ↑ ボンド役
過去のカポーティ関連ブログ記事
「カポーティ」 VS 「冷血」
「カポーティ」 と 「シリアナ」
フィリップ・シーモア・ホフマンの子育て画像

