たなおろス。

妄想癖・脱線症と戦いながら、映画や本、世事について、思ったことを 棚卸し(たなおろし)するブログ。

「叫」 (さけび)

伊原剛志さんは、どうなっちゃったんでしょうか?

叫

正直に言うと、ちょっとした手違いで観てしまいました。ジャンルを知っていたら絶対に観なかった映画。そういうのも、たまにはいいか。

日経新聞の金曜日の夕刊に、翌日土曜日に公開される映画を7本ほど取り上げ、映画評論家のコメントと★の数で採点がついた「シネマ万華鏡」というコーナーがあります。土曜の朝にそのページを開いたところ、普段あまり見ない★★★★★が目に飛び込んできました。マチャアキなら「星、五つでっす!」って叫ぶところです。
ちょうど本日の1本をまだ決めてなかったのと、近場でやっていたのとで、早速初回を観に行きました。「黒沢清」「役所広司」「ミステリっぽい」の3つの情報だけで。

叫

冒頭から殺人シーンで、赤い服を着た女性が、工事現場の水溜りに顔を沈められて、声無き断末魔の叫びをあげながら事切れます。このシーンが結構長いので、この役はよほど肺活量の多い女性か女装した男性かもしれません。
女を殺した男は、主役の役所広司にも見えますが、夜の暗闇でよく見えません。
翌日、役所広司扮する刑事が現場捜査にやってきます。
この刑事、水溜りの水や死体についた塩の結晶を、まるでフランス料理のコックがソースの塩加減を確認するかのように、度々味見します。根っからの刑事であることが分かりますが、死体漬けの海水なだけに、おえっげろげろー!となります。
現場の水溜りに落ちていた見慣れたボタンや、鑑識の結果遺体の爪から検出された自分の指紋により、身に覚えが全く無いながらも、自分への疑念が徐々に湧き上がります。
「俺、何やった・・・?」
ここまでなら重度のアルコール依存症にもあることですが、なかなかの予想不可能な展開に、期待が広がります。

しかし、なんだか様子が変です。
もしや、これってホラー・・・・では?と嫌〜な予感がした時には、すでに遅し。
早々と、幽霊のご登場です。 (展開、早っ)
和製ホラーが苦手で、「呪怨」も絶対観なけりゃお化け屋敷すら入れない私は、自分の浅はかな行動を恨みました。いくら星の数に目が眩んだとはいえ、ストーリーくらい読んどけよ・・・。ああ、嫌だなぁ。これからずっと苦痛だなぁ・・・

ところが、です。
この幽霊というのが、葉月里緒菜改め里緒奈さんなのですが、思ったより怖くありません。和製ホラー特有の、出るぞ〜出るぞ〜な間はやはり苦手ですが、登場してしまえば普通に綺麗な里緒奈さんです。髪で顔が隠れた陰気な貞子と違って、真正面から風を浴びて髪をなびかせる彼女はまるでモデルのようです。

叫 どっちが幽霊なんだか(笑)

鏡の中の幽霊は驚いているのではありません。題名の通り、叫んでいますムンクの叫び
この幽霊、名無しの権兵衛なので、以降ムン子と呼ばせていただきます。
この赤い服のムン子さんですが、いろんなヴァージョンを披露してくれます。
物陰から顔半分で覗くストーカーなムン子、壁の裂け目からバリバリと登場するオカルトなムン子、手を前にたらした正統派のムン子。
3次元と2次元も自由自在で、元々肉薄で線の細い葉月里緒奈が、ペラペラの立て看板状態で迫ってくるところは必見です。

現れる時は神出鬼没なムン子さんですが、移動手段は様々です。
す〜と幽霊ウォークをしたかと思えば、普通に歩いて玄関から出ていったり。
もしかして幽霊じゃないのか・・・と思ったら、ビルの窓の外に浮遊していたり。
そんな時、ムン子がビルの窓から飛び降ります。
「あっ、幽霊が飛び降り自殺した!」
と仰天していると、なんと空飛ぶムン子。しかも早い。なかなかの多芸ぶりです。

そんな彼女なので、どうしても笑いを誘います。が、驚いたことに場内では笑い声ひとつ聞こえません。いくらガラガラとはいえ。皆、笑いを押し殺していたのでしょうか。
この手の映画に慣れていないので、和製ホラーでの観客の反応がよく分からないのですが、少なくとも、あれがハリウッド映画だったら場内に失笑、いえ大爆笑間違いありません。ヴェネチア国際映画祭で(出展すれば必ずついてくる)大絶賛とのことですが、笑いは起きなかったのでしょうか?

「あなただけ許します」「私を殺した」「どうして、一緒にいてくれなかった」と、演歌の世界も真っ青の恨み節と、一見、葉月里緒奈を地で行くような我がままムン子。
「君は出る相手を間違えている!」と役所広司が必死の説得に入りますが(笑)、そんなことは意に介しません。
葉月さんのこの世のものじゃない役として、過去にミトコンドリア役(パラサイト・イヴ)なんてものがありましたが、あれが、人間に寄生した遺伝子の反乱だとすれば、これは、忘れ去られたまま朽ちていくモノたちが宿った幽霊の叫びとも言えます。冒頭のムン子のセリフは、逆恨みとか彼女自身の無念の声だけじゃなく、代弁者としての声でもあるようです。

と、意外にスケールの大きさを見せつけるムン子ですが、ターゲットに直接手を下しません。生きて償え(何を?)ということなのか、十字架を背負わせます。つまり殺された人々は殺され損で、それこそ彼らの怨念が残りそうです。
また、この映画は血が流れません。みんな溺死なので。その代わり、全編を通して、ムン子の洋服の赤が際立ちます。唯一、中村育二扮する医師の生白い顔と口から流れる血のコントラストは怖いです。地面に着地した時の「あぁっ」と言う声には、脱力しましたが。

叫

役所広司と恋人の小西真奈美が、未来について語るシーンが印象的です。
高層ビルと廃墟が同居する、お世辞にも美しいとはいえない街について
「昔、開発していた時は、近未来な世界を想像したけど、違ってたんだな」
「未来なんてそんなものよ」

いつか大地震がきて、消滅してしまうかもしれない街について、
「意外と皆、それを望んでいるのかもしれないな」

私の住んでいる場所も、かつては海だった埋立地です。あまりに多くの人と建物が地盤が脆い埋立地の上に立っています。
最近は、また都心回帰が進み、高層マンションの建設ラッシュが続いています。バブル崩壊後に外資たちが破格の値段で買い取った土地も多く含まれます。しかし、外資系企業に勤める外国人たちは声をそろえて、東京に住み続けたくないと言います。なぜなら近い将来大地震が起こる可能性が低くないからです。もし東京で大地震が起これば、歴史に名を残すほどの大惨事になることは避けられません。それでも私たちの多くは、都会に住み続けています。
また、日本の地下には、戦時中に投棄された戦争廃棄物や高度経済成長中に捨てられた産業廃棄物がまだまだ埋まっている可能性があります。有害な地下汚染の可能性を知りながらも、それらが表沙汰にならない限り、気づかないフリをし、欺瞞の生活を続けています。
ムン子の叫びは、そんな私たちへの警告なのかもしれません。

劇中の犠牲者は、4名・・・いや5名か。ムン子の動機を考えると、もっと犠牲者が出てもいいはずです。役所広司に固執している場合じゃありません。ラストで自ら法則を破り、パワーアップする姿は、貞子のような暴走を予感させます。「叫2」があるかどうかは分かりませんが。

最後に、その他の登場人物について少し。

オダギリジョー演じる警察官のカウンセリングを行う精神科医。キャリア官僚チックで、うんと年上の役所広司にもタメ口です。癒されるどころではありません。自分の想像を超えた世界に動揺を隠せない様子でしたが、精神科医が患者の話を鵜呑みにして、やっていけるのでしょうか?

船頭役の加瀬亮。あれは、加瀬亮じゃなきゃいけないのでしょうか?
今となっては、なんとも無駄に豪華な配役です。

奥貫薫が演じた女性は気の毒でした。隠蔽工作でもないのに、しかも女なのに、あんな大変なことを強いられて。洗面器ではダメだったのでしょうか?


劇場を出て、エスカレーター横の鏡に映った自分を見て、赤い服を着ていたことに初めて気づきました。思わず、鏡に向かってムンクポーズをとったことは言うまでもありません。

一緒に観ていた相方に感想を聞くと、開口一番こう言いました。
「あのビーフシチューは、どうなったのかな」


  1. 2007/02/27(火)
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女性が水たまりで水死させられる事件が起こる。刑事の吉岡が現場に向かうと彼が持っているコートのボタンが落ちており、しかも死体から彼の指紋が検出される。同僚の宮地は吉岡の関与を疑い始める。しかし似たような手口の殺人事件が続けて起こり、犯人が捕まる。役所広司主
  1. 2007/02/27(火) 22:51:09 |
  2. kazhik.movie
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