青い熊のぬぐいぐるみで顔を隠した少女に、「治療島」というタイトル。
不穏度数120%
治療島セバスチャン・フィツェック 赤根 洋子訳
読み始めてしばらくして気付く。
青い熊だと思っていたのは、猫だった(笑)
名前は"ネポムク"という。
失踪した少女ヨーズィが大事にしていたぬいぐるみ。
これがこの小説のミステリー・・・というわけでは全くない。
ここで改めて表紙をじっと見る。よく見ると、なんとも不思議な構図だ。
少女はぬいぐるみを抱きしめているわけではない。
ぬいぐるみで顔を隠しているにしては、手が不自然。
両手で見えない棒を握っているような・・・そう、この少女には風にはためく旗がしっくりくる。その旗を消し、ぬいぐるみで少女の顔を隠したみたいなアイコラ風。
少女とぬいぐるみは同時空間に存在していない・・・?
このカバーイラストは、中島恵可氏によるもの。
水彩画のタッチに記憶があると思ったら、トマス・H・クックだった。
クック作品は翻訳者がころころ変わるけれど、表紙は一貫して中島氏だったはず。
ヨーズィの手のポーズの意味についてぜひ聞いてみたいところ。







クックの本は、『緋色の記憶』 『夏草の記憶』はまだしも、それ以降、どんな内容だったか題名と内容がごちゃ混ぜになる。
『死の記憶』『夜の記憶』ともなると、どっちを読んだか本屋でしばし悩んだものだ。
死と夜の字も紛らわしく、結果、こんなことに・・・
私の記憶の方が心配
なお、このイラストも中島恵可氏。
付けっぱなしだった帯をはがしてみて、新たな発見に驚いた。
帯に隠れていた少年の顔が・・・・・めっちゃホラーやん(笑)。
『石のささやき』の少年の顔もだが、人物の顔が写真のようにリアルなのだ。
その中島氏、昨年ちょっとした盗作騒動があった。
さらに、読売新聞社が5月28日付朝刊に掲載した連載小説「声をたずねて、君に」の挿絵が、月刊誌「ダ・ヴィンチ」2月号に掲載されていた写真に酷似していたことが分かり、同社は「著作権侵害の疑いが強い」として1日付朝刊でおわび文を載せ、制作したイラストレーター中島恵可氏の挿絵の使用を同日から取りやめた。 同社によると、5月28日の挿絵に対して「Jazztronik」のユニット名で活動するアーティスト野崎良太氏の宣伝用写真に酷似しているとの指摘が29日、同氏が所属するレコード会社ポニーキャニオンから読売新聞社にあった。 同社の調査に対し中島氏は雑誌に掲載された写真の無断利用と、ほかにも写真などをトレースして制作した挿絵があることを認め、謝罪したという。 (2007/6/1 共同通信)
読売新聞朝刊に連載中の小説「声をたずねて、君に」の挿絵を担当したイラストレーター中島恵可(けいか)氏(51)=高知県在住=が他人の写真を無断で利用していた問題で、同社は2日、さらに35点の挿絵に著作権侵害の疑いがあるとの調査結果を発表した。 読売新聞社によると、同氏が新たに無断利用を認めた挿絵は06年8月30日付〜今年5月26日付の35点。高知新聞に掲載された32点と、読売新聞の3点の写真に酷似しており、高知新聞掲載のうち13点が共同通信社、5点が時事通信社、2点が主婦と生活社からそれぞれ配信されていた。各社に対し読売新聞社は2日までに謝罪した。同社は中島氏本人から事情を聴いた結果をもとに調査をしていた。
中島氏は同社を通じ、「小説の内容にできるだけ即した絵を描きたいと考える中で、時間の制約もあり、いけないことと知りながら、新聞に載った写真を無断で使用してしまいました」との談話を出した。同氏は6月1日付から挿絵の担当を外れている。 (2007/7/2 朝日新聞)
中島氏は普段から新聞などに掲載された写真を切り抜いておいて、必要に応じてトレースなどに利用していたとのこと。
クック本表紙のリアルな人物がトレースだとして・・・・引用元は大丈夫なのかな?
では、『治療島』の少女は?少女の手のポーズは???
と、カバーだけでもミステリーな『治療島』の内容について。
原題はDie Therapie、「島」が付いたのは邦題オリジナル。実際にパルクム島での出来事が半分を占めて綴られており、事前に与えるインパクトと、読んだ後もなるほどと思えるこの邦題がなかなかいい。
少女の失踪というと、どうしても背景に陰惨なものを連想させる(クックのような)。
重くて読み進めにくいのかと思ったら意外にサクサクと、2時間ほどで読み終えた。章の構成が「真実が明らかになる五日前」から1日ごとにカウントダウンされるので、「真実が明らかになった日」まで区切れなかったというか(笑)。
まず少女の父親が精神科医であり、自称統合失調症のアンナが登場し、ミュンヒハウゼン症候群なども引用され、一体誰が精神を病んでいるのか・・・それによって事件の見方も二転三転する。
統合失調症については、近しい人が発症したことで多少知っている。脳内の神経伝達物質(ドーパミン)の異常などにより、現実と非現実(妄想や幻覚)の区別がつかなくなる。多くの人にはなんでもないことに怯え、悩み、恐怖を味わう。脳で受け取ったものが唯一その人にとっての現実なのだから、ありふれた日常もサスペンスフルになってしまう。
だから、統合失調症を根幹に持ってくると、いくらでもミステリ小説や映画はできてしまう。それを使うのがルール違反とは思わないし、実際に多くの人に発生する精神疾患をどう扱うかは著者の手腕だ。そういえば、クックの「石のささやき」も統合失調症の話だった。
『治療島』の著者はテレビ・ラジオのディレクター、放送作家だそうだ。だからなのか、なんとも映画的なラストを迎える。重くて暗い作品だと思って読んでいたら意外にエンターテイメントだった、みたいな(笑)。そして実際に映画化されるのだ。
結末を知ってパラパラッと読み返してみたが、伏線はたくさん張られていて齟齬もない。というか、ああいうオチだと嘘も本当というか、嘘が嘘にならないわけで・・・。
内面と現実がごっちゃになる映画はいろいろあるが(「マシニスト」「オープンユアアイズ」(バニラスカイ)、デヴィッド・リンチ全般w)、なぜだか「水曜日に抱かれる女」を思い出してしまった。
訳者あとがきにも映画化に触れられており、どちらかというとハリウッド映画的で訳しながらトム・クルーズとニコール・キッドマンを連想した、と書かれていた。しかもキッドマンはアンナ役だそうだ。冷戦の末に離婚した二人の関係から考えると、夫婦役の方が似合っているような。それにラストに登場する妻イザベルはキッドマンでしょう(笑)。でも、妻イザベルはそんなヒドイ女だろうか?

